2016年 12月 26日（月）

• 『週刊金曜日（16/12/9）』より。
  • 日本の侵略戦争は1874年から始まっていた（P20-、纐纈厚「今こそ「大日本帝国」総体の侵略の歴史を総括せよ」）
    ●安倍晋三首相は今月、ハワイに「慰霊」に行く。だが75年前の12月8日、日本軍は真珠湾攻撃の前にマレー半島を侵略した。それに先立つ中国も含め、アジアへの侵略は明治時代から始まっている。…
    ──いまだに右派は、太平洋戦争は「アジア解放のためだった」などと主張していますが。
    　とんでもありません。40年8月16日に閣議決定した「南方経済施策要綱」では、英領マレーや蘭領東インド（インドネシア）、仏領インドシナを対象に「皇軍の軍事的資源的要求を基礎とし」て「経済的大東亜圏の完成」が目的だと明記してあります。どこにも「解放」などと書かれていません。米国が日本の中国侵略に抗議して対日石油輸出の前面禁止に踏み切る前から、日本は東南アジアの資源を狙っていたのです。
    ●「米国だけに負けた」？
    ──その東南アジアに侵略したのだから、日本は英国やオランダ、さらにはオーストラリアとも交戦状態に突入しました。しかし、なぜか「12月8日」とは、真珠湾攻撃で米国と戦争になった日としてしか受け止められていません。
    　それが問題なのです。あたかも「米国だけと戦争し、その結果、米国に物量で負けて降伏した」という歴史認識で、ここではマレー半島やインドネシアのみならず、中国を始めとしたアジアでの戦争が見えてきません。中国大陸には日本は最盛時197万人規模の大軍を派遣しましたが、そこでも敗北しました。まずアジアに侵略して負けたのです。ところが、「米国には負けたが、中国には負けていなかった」、あるいは「米国に邪魔されなかったら、中国には勝っていた」と何となく思い込む見方が戦後横行し、同時に「米国に負けたのだから、これからは米国についていけばいい」という発想が生まれました。これが国民の対米従属の心理を生み、現在も「日米同盟を支える歴史認識」となっています。…
    ●真の反省と歴史認識
    ──「15年戦争」（1931年の満州事変から1945年の敗戦まで）ですね。おそらく「反省」といった場合、対米戦争に留まらないで、この中国を中心とした15年間の戦争も含めるべきだというのは１つの見識だと思います。では、その前の日清戦争、日露戦争はいったいどうなるのか。作家の司馬遼太郎は、『坂の上の雲』で「祖国防衛戦争」だと主張していますが。
    　まったくの、デタラメな暴論です。日露戦争後の1910年に韓国併合が強行されたように、この２つの戦争は朝鮮半島を日本が支配するため、清とロシアの影響力を排除するのが目的の侵略戦争でした。さらに言えば、日本の戦争は1874年の台湾出兵から始まっているのです。「反省」といった場合、明治近代国家が手を染めた最初の侵略であった台湾出兵からまず見ていかないと、本質がわからなくなるのではないでしょうか。「15年戦争」に留まらず、さらに明治期から始まる大日本帝国の総体まで正確に総括する必要があるのです。そうしないと、「何が悪かったのか」という本質的な問題がわからなくなります。
    ──その司馬によれば、「日露戦争までよかったが、それ以降ダメになった」と。
    　日清・日露戦争が「祖国防衛戦争」だと思うから、そうしたおかしな議論になる。繰り返すように、台湾出兵以降、明治近代国家の侵略政策は一貫しているのです。途中で「ダメになった」のではありません。…
    ──朝鮮を植民地化してから、その後もそう（戦争を頻繁に繰り返す「戦争国家」）でした。次に、満洲（中国東北部）を狙う。
    　日本は1931年に満州事変を引き起こした後、満州国をでっち上げます。さらにそこを軍事拠点にして、華北、そして華中へ侵略していく。その結果、37年から中国との全面戦争に突入していくのですが、続いて国民党政府の補給ルートを断つために、今度は仏領インドシナ南部（ベトナム）にまで侵略する。その結果、怒った米国から石油の全面的な輸出禁止措置をとられてしまい、ついには石油や他の資源を狙って東南アジアまで侵略しました。それが、「12月8日」という歴史的意味なのです。台湾出兵から始まった、アジア侵略の帰結点として捉えられる。だからこそ私たちの「戦争の反省」とは、明治近代国家までさかのぼる必要があるのです。そうでないと、真の反省には決してなりません。
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    高校の歴史の科目が変わる（現状の世界史必修から、世界史・日本史を合わせた歴史総合（仮称）を必修とする方向で検討中）そうですが、日本の近現代史は本記事に書かれたような内容を起点として学ぶべきですね。客観的事実に基づいた歴史学とはこういうものをいうのです。上記は抜粋ですが、是非、全文をお読みください。必読です！
    1941年12月8日に日本が真珠湾を攻撃（奇襲）し、日米が開戦しますが、それ以前に日本はアジアで本格的な戦争状態にあった。このことを知らない日本人が意外に多いのは問題ですね。1941年12月8日は「戦争が拡大した日」に過ぎないわけですが、あたかも日本が初めて開戦した日のように捉えられてしまっている（マスコミもそのように報じてしまっている）。そしてこの「歴史観」は、それ以前から行われていた日本による中国侵略を覆い隠す役割も担ってしまっている。結果的に「なぜ中国が第２次大戦のことについて文句を言うのか？」などと言い出す無知蒙昧な輩を生み出してしまってもいる。
    これらはすべてリンクしていますね。日本の近現代史の事実を知られると困る政治家、役人、産業界がグルになって、史実を隠そう（そして「歴史修正主義」というウソで塗り固めよう）と躍起になっている。そこに報道機関や出版社や御用学者も加わって、大きな勢力になってしまっている。当然、大きなカネも動くでしょう。それで食っている連中もいるでしょう。歴史、教育、情報操作、愚民政策……。専門家（まともな歴史学者）の声が、国民に届くようにするには、どうすれば良いでしょうか？
    それにしても司馬遼太郎の罪は重いですね。単なる作り話の作家に過ぎないのに、なまじストーリーテリングが上手なものだから、皆、ダマされてしまう。歴史的事実とフィクション（エンターテインメント）とは違いますからね。しっかりして下さい、皆さん！
    【補足】『週刊金曜日（16/12/16）』P47 にも関連記事があります。高嶋伸欣・琉球大学名誉教授による記事からの抜粋（↓）。日本の近現代史を客観的事実をベースに振り返るために、中高生だけではなく、大人向けにも書籍（新書版くらいで）やＴＶ番組などで、こうした内容をコンパクトにまとめておく必要性を感じました。この１冊があれば、ネトウヨの浅薄な「歴史認識」など吹っ飛ぶような、まともな歴史学者による新書。大人のためのコンパクトな教科書。どなたか書いて頂けませんか？
    　現在では中学・高校の歴史教科書が、真珠湾攻撃よりも早くマレー半島東岸で英軍と戦闘を始めていたと学ぶ記述になっている。なぜ東南アジアなのか。中国民衆の抵抗を見誤り、資源地帯の侵略に追い込まれたためだったと、生徒たちは容易に気づく。…
    　教科書にはすでに「陸軍はイギリス領であるマレー半島のコタバル、タイのシンゴラに上陸」との記述もある（『高校日本史Ａ・Ｂ』実教出版99年度用以降）。天皇の軍隊（皇軍）は独立国タイに無断上陸し、主権侵害の国際法違反を犯した。また前年に日タイ間で調印・批准した「日タイ友好和親条約」ではタイの主権尊重（第１条）とタイの中立政策尊重（第３条）を定めていた。しかし皇軍は武力で脅し、中立政策から対日協力に転換させた。
    

2016年 12月 13日（火）

• 『週刊金曜日（16/12/2）』より。
  • 自民党はＣＩＡの手先だった（P18-、成澤宗男「「占領憲法」批判と対米従属の奇妙な結合」）
    ●「自主」のウソ
    　一方で今日まで、安倍首相をはじめ改憲派は、「自主」や「独立」を掲げながら、「対米従属」というそれとは真逆の現実には口をつぐんでいる。日米安保条約自体、日本全国で米軍が望む場所にはどこでも基地を作れるという世界に例のない「全土基地方式」を規定。それに基づく「日米地位協定」も、（１）米軍基地の実質的な治外法権（２）米兵が起こした事件・事故の「第１次裁判権」の放棄（３）民間空港や港湾、道路などの自由使用──等を定め、事実上米軍による「占領」の継続を保証する内容だ。
    　ところが、歴代自民党政権は「日米地位協定」の改訂を求めた形跡はない。加えて「思いやり予算」と称し、それが始まった1978年度以降約２０兆円も血税を投じて、米軍基地の建設費や基地内日本人従業員の給与、基地周辺対策費等を負担義務もないのに支払い続けている。対米外交も、日本政府が「米国に譲れるものは全部譲る」方針で臨んだＴＰＰ（環太平洋戦略経済連携協定）交渉を典型に、「属国」そのものだ。
    　そもそも岸元首相は、米『ニューヨーク・タイムズ』のティム・ワイナー記者が著書『Legacy of Ashes』（邦題名『ＣＩＡ秘録』文藝春秋）で暴露したように、ＣＩＡを通じ「日本の外交政策を米国の望むように導く見返りに資金援助を受けていた」政治家だ。05年に機密解除された米国立公文書記録管理局の資料によると、Ａ級戦犯終身刑確定者で元蔵相の賀屋興宣、自民党の総裁代行委員の緒方竹虎、初代科学技術庁長官の正力松太郎ら自民党の要人も同じく「資金援助」の対象者たちだった。
    　自民党自体への「資金援助」も60年代まで続いており、この党は「自主」と称して改憲を掲げても、1955年の結成以降、米諜報機関の影響下にあった。９条改憲も、冷戦期の米国にとって日本の再武装が好ましかった。安倍首相が強行した秘密保護法制定や「集団的自衛権行使容認の合憲化」も、改憲も含めアーミテージ元国務副長官ら対日ロビイストが歴代政権に突き付けていた「レポート」の内容通りで、日本をより米軍に組み込むための要求の一環にすぎない。
    　もし日本会議が「誇り高い伝統ある国がら」を目指すなら、外国諜報機関の息のかかった政党が政権与党に収まり、「属国」的政策を長年取り続けている由々しき現実を批判するべきだ。
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  • 伝統に従えば、生前退位（譲位）となる（P28-、山田朗「戦後を否定する「ナショナリズム」の虚構」）
    　実際、安倍晋三首相は昨年8月の「戦後70年談話」で、「日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました」とこの戦争を持ち上げていますが、とんでもない。日露両国が戦争後、1905年に結んだポーツマス条約の第2条には、ロシアは「（日本が）韓国に於いて政事上、軍事上及経済上の卓絶なる利益を有することを承認し」云々とあり、これによって韓国併合が可能になったのです。…
    　さらに日本会議は、「先人が培い伝えてきた伝統文化」と重要視していますが、明治時代に作られたものを「伝統」と見なしているにすぎません。日本会議の「設立宣言」には「天皇を国民統合の中心と仰ぐ国柄」という表現もありますが、江戸時代など前近代の歴史を見ればその認識は誤りで、明治政府が国民に押しつけた「国柄」であったことがわかります。
    　そのためか、日本会議の有力メンバーは、おしなべて天皇の「生前退位」に反対し、中にはこれを「事実上の国体の破壊に繋がる」などと主張する論者もいます。しかし、歴史上、天皇の譲位は普通に行なわれ、女性の天皇もいました。「伝統」を強調するなら、日本会議は「生前退位」に賛成しなくてはなりません。それができないのは、天皇を絶対化した明治政府が否定したからです。
    　このように、「伝統」とは言っても、近代国家を作るために明治政府が都合良く再編成した「伝統」なのであって、日本の歴史全体からすると例外的なものばかりです。そこに舞い戻ろうというわけだから、明らかに無理がある。
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    いずれも極めて重要な見解ですが、共通点として「歴史に対する謙虚さ」や「事実を重視する姿勢」が認められますね。
    安倍首相とその周辺や日本会議は、歴史を尊重するようなフリをしながら実は、自分に都合良く「歴史」や「伝統」を作りかえてしまっています。もちろん、それらは実際の日本の歴史とは異なりますから、文献を調べたり、専門家に訊けばわかることばかりなのですが、一般人には馴染みが薄いので「ダマせる」「押し切れる」と思っているのでしょう。
    ここで重要な役割を果たすのが、マスコミや学者です。彼らがちゃんと「仕事」をしていれば、つまり、何が歴史的事実であるかを国民に伝えていれば、安倍首相や日本会議がウソつきであることが常識となるでしょう。歴史的事実は変わりませんからね。
    『週刊金曜日（16/11/25）』の P5 に以下のような記述があります。
    　重慶爆撃とは、日本が中国を侵略して首都南京を攻略した際、戦時首都となった重慶に対して行った爆撃のこと。日本軍は重慶市をふくむ四川省各地に対し、1938年2月から６年半にわたり、およそ２００回の無差別爆撃を行ない、死傷者は１０万人にのぼった。
    このような非道が行われていたこと、ご存知でしたか？　恥ずかしながら、私は知りませんでした。南京大虐殺や従軍慰安婦ばかりが日本軍の侵略行為ではなかった。ここから類推すると、他にも、こうした「日本人に隠された事例」は多かったのではありませんか？
    事実に即した歴史を学ぶことの重要性を改めて痛感します。歴史学習は、その国の発展と国際交流に直結しているのですね（まずは実際にあった事実を知ることで、反省・学習し、次のステップへ進めるはずですから…）。